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モーツァルトのピアノ協奏曲第19番K.459   アルトゥール・シュナーベル

ここのブログでも「モーツァルトは普段聴かない」と言ったり、インタビューで「モーツァルトは嫌い」と言ってしまったりで、足立さつきさんに心配された(笑)。確かにモーツァルト・イヤー、世はモーツァルトばかりで、まさに稼ぎ時!大好きと言っていれば良いに決まってるが、それが出来ないのが私である。これぞフリーな強み!しかしモーツァルトを弾かないわけにいかないし当然好きな曲も数多くある。6月のベルリン・フィルの皆さんとのアンサンブルで選んだピアノ四重奏曲第1番はもちろん、ケーゲルシュタット・トリオ、ピアノ協奏曲の第19番は大のお気に入りだ。

この第19番は、第26番と同じくモーツァルト自身が「戴冠式」に演奏したものであるが、「戴冠式」の名前は死後出版された時に26番につけられてしまい、19番の方は一般に馴染み薄い曲に成り下がる。よって私はこの曲が一番弾きたいのだが、いつも集客を理由に却下されて、今までしぶしぶ13、14、21、24、27を弾いている(笑)。しかし私と同じく、この曲を愛してやまないと思われるのがクララ・ハスキルだ!彼女はライヴも含めてこの曲の録音を幾つも遺した。ハスキルのモーツァルトは神格化されていて、確かに表情豊かでありながらも凛とした名演。だが私は(この曲に限らず?)モーツァルトといえば断然シュナーベルなのである。

アルトゥール・シュナーベル(ARTUR SCHNABEL,1882~1951)は、晩年イギリスで活躍したこともあってそちら系だと思っている人も多いが、オーストリア領のリプニック(現ポーランド)に生まれたオーストリア人である。モーツァルトのピアノ協奏曲第19番K.459   アルトゥール・シュナーベル_a0041150_024952.jpg一般には歴史的なベートーヴェンの解釈者、ベートーヴェンのピアノソナタと協奏曲全曲を史上初めて録音した人として知られている。当時としては即物的な解釈、情におぼれないという評価だったが、それは今の時代では全く当てはまらない。感情に任せてテンポはスパークしがちだし、解釈も含めてあちこちいい加減になっているし(笑)、テクニックもかなりあやしい。批評家の「ベートーヴェンも後期のものが優れている」等という意見に耳を貸さず、前期の生命力ある勢いのある曲の中に示した魅力を楽しみたい。個人的にはピアノソナタの第5番や、ロンド・ア・カプリッチョ「なくした小銭への怒り」の心浮き立つ快演がうれしい。

ところでモーツァルト信者や愛好家には怒られるが、私はモーツァルトの良い演奏に接した時、イタリア風なロッシーニ的気分を感じることがある。モーツァルトは旅を通じて各地の空気を吸収していたし、逆に彼の影響を各地に遺したということなのかもしれないが、イタリア風な情感は、彼の音楽が根っからの楽しさや音楽の喜びに満たされた時、そして器楽的ではない「歌」として演奏された時に発せられている。それは例外なくウィーンの人たちが演奏した時に限ってのことだ。誰もこんなことを言っていないが、私はシュナーベルがそんなウィーン的要素に溢れたピアニストだと思っている。モーツァルトにおけるシュナーベルはいつも陽気だ。例えばピアノ協奏曲第20番の両端楽章も明るく、悲劇的にならない。第23番の第3楽章では民族色豊かな独特なリズムを示したりもする。ウィーンフィルの人たちが持っているような良い意味での「いい加減さ」が生命力をあおる。そして緩徐楽章はことごとく遅い。かといってロマン派の様に弾いているわけでもなく深刻でもないので、まさに「歌」の様に弾いているのだ。この遅いテンポでの演奏は、実際にはとても難しいので、私たちにはとても勉強になるのだ。古い録音だが、きっと生ならば非常に味のある音と色彩で弾いているであろうことが、この第19番では十二分に感じられる。バッハをフルオケでやってしまうような大時代的なオケの前奏が終わると、弾く喜びに満たされたような自由なピアノが聴ける。終楽章のピアニスティックな自在な表情付けも楽しく、シュナーベルのモーツァルトには、現在に通じる粋があるとも思っている。モーツァルトのピアノソナタはギーゼキングの物が好きだが、シュナーベルが全曲録音していたら話は別である。この2人の演奏内容(志向)は全く異なるものなので比較は出来ないが。

モーツァルトのピアノ協奏曲第19番K.459   アルトゥール・シュナーベル_a0041150_1542275.jpg余談だが←このCDのモーツァルトのピアノ協奏曲第23番では、調子に乗ったシュナーベルが第3楽章で思い切り暗譜を忘れて止まってしまう。譜面をパラリと見せてもらって再開、再開後はさらに調子に乗って(笑)弾き進む有名なもの。またカップリングの第24番のカデンツァも即興風なノリ。これもオーストリア(ウィーン)気質と思えば納得がいくし(笑)楽しい。

シュナーベルはシューマン等を弾いてもやはりウィーン的な味わいだし、当然シューベルトの小品や室内楽もうまく、注意深く聴くとその多彩な色合いが良くイメージできる。それはそうと石丸電気とかに行くと、彼のベートーヴェンの32曲のソナタが全曲、輸入盤10枚組ボックスで1600円ぐらいで売っている!買いましょう(笑)!


(後日談)この写真のCDではそのミスの部分は修正されてしまっているらしい。私はLPで持っているのだが、そうと聞けば、ぜひこの修正盤も聴いてみたいものである(笑)。
by masa-hilton | 2006-05-09 23:04 | 大ピアニストたち
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