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ブルース・フォードさんに会う・・・・驚くほどの歌のうまさに酔う

休む間もなく、練習をさせてもらえる間もなく(笑)、ブルース・フォードさんのリハーサルに向かう。ロッシーニ歌いのテノールとして伝説的な人でもある。来日された折のエアポートでの状況を伺うと、大変なセレブな紳士ぶりで「日本人もあまりネクタイをしていないのだね・・・」「ここにも紳士がいないね・・・」「どうして暗い色ばかり着ているのだろうか・・・」とおっしゃっていたそうだ。それでは!と、こちらも仕事のときはスーツを着るのは好きだけれども、リハーサルなのにがんばって、ヴェルサーチのスーツにプッチのネクタイでお出かけだ(笑)。

お会いすれば、とても気さく。また良くしゃべる元気な方で、休憩だろうが歩いているときだろうが歌うことをやめない。音楽が溢れているというか、音楽が大好きでしょうがない、最高の誉め言葉としての音楽バカと呼べるジャンルの人だ。「頭からペトラルカのソネットが離れないんだよ」とおっしゃるので「日曜日弾いてきたよ」と言ったらビックリされて「どれ?」。それで私が弾いたのが123番だとわかると「一番好きだ~」と絶叫して意気投合。「プログラム変えますか?」と言うと「イヤイヤ、それはしないよ」と爆笑。

リハーサルが始まると、まあ・・・・・ビックリするくらいうまい。めちゃくちゃすばらしい!表情の豊かさと感情表現が繊細で、まさに「うまい歌」を聴かせてくれるタイプの人だ。日本人のコチコチの聴き手にとっては「アジリタがどうこう」とか、このジャンルだとそういうことが一番大事なことのように言われるが、私はそういう「音楽のまともな聴きかた」とは違った「変態的フェチの楽しみ(これも悪い意味じゃないけど、そんな感じするよね 笑)」の視点からは判断が出来ない。すみません。ただ感覚的なものや雰囲気、音楽の心の動きがこれほど柔軟なテノールを聴いたことがない。ソプラノならばいるが、テノールはここまで細やかな歌を普通は歌わない。

「君はパーフェクトだね!音楽も良いし!特にロッシーニは有名なピアニストのあいつもあいつも、皆もっとへたくそだよ(笑)」とかなり誉めてもらえたが、常々ロッシーニの、それもわりと馬鹿馬鹿しい内容の歌曲のピアノ伴奏が難しいと思っていたので、なんか安心した。「他の人はどうやってるんだろ?」と思っていたところだった。感情豊かに弾いたり、ピアニッシモを使ってセンス良く弾こうとすると、崩壊したり目立つアクシデントが起こりがちの曲だ。逆に専門家づらしてバシッと弾いてしまう人は、内容のない弾き方に徹しているから(感受性が足らないからという場合も)、それが出来ている場合が多い、というのが実情だ。レベルから言ったらはるかに上だけれど、リストの「ペトラルカのソネット」に変更してくれたほうが、本当はずっと安心だ。

シュトルツの曲はブルースさんが楽譜がなくてずっと探していたら、かの大テノールのニコライ・ゲッダが楽譜を送ってくれたものなんだそうだ。「ぜひこの曲を楽しみたまえ」というメッセージのあとにゲッダのサインがあって「そのゲッダのスペルが全部音名になっていて、最後のAが高いAになっていてね・・・」ととても楽しそうに話しておられた。そういえばどこかゲッダに似ている?「自分のレパートリーはドニゼッティまでなんだよ」ともおっしゃって、なんと有名な「女心の歌」等も最後の音を高い音に決して上げない。きっとお客さんはビックリだろう!が、これがスタイルだ。ただ、こんなに内容の素晴らしい音楽が、たかだかハイノートのこと等で、中途半端な人たちに万一中傷されたりしたら残念だ。

今日は、楽譜が違っていたり色々とあったが「もうリハーサルは必要ないね」と明るく笑ってオシマイ。素敵な色のコートに身を包みながら「おいしい日本茶を買いたいんだけど・・・・」と聞かれたが、簡単に「浅草に行けばいい」みたいなレベルではないらしいので、デパートで竹茗堂(ちくめいどう)の高~いやつを買ってもらうことにした(笑)。
by masa-hilton | 2007-12-19 01:39 | 音楽・雑記
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