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ショパンのエチュード作品10-5「黒鍵」   アルフレッド・コルトー

コンクール等で意外に多く弾かれる黒鍵のエチュード。「とっつきやすいし難曲の部類でもないので」ということでの選択だろう。しかしこの曲で点を集めるのは難しい。まず冒頭のペダリングである。安定感のある踏み方は2拍目、すなわち左手のチャンチャンチャンの3番目のチャンで1拍分を踏む。でもこれをやられると思わず重くため息をつきたくなってしまう。実はこの2拍目で踏んでいくやり方は効果的なようでいて、いかにも学生的、勉強中、ノーアイデアという感じがする。2拍目の方に何らかのアクセントがついて聴こえるから音楽もワンパターンになり幼稚になる。で正しい弾き方はペダル無し。3小節目等も無い方がいい。軽やかに左手も多彩に弾けるし、右手も細かい音譜がクリアーで表情がつく。その分だけ指に負担がかかるから「難しくないから」と考えた選択は意味を成さない。

パデレフスキー版等では1拍目で踏むことを推奨しているが、こちらの方がずっと実戦的だ。それでも譜面に書いてあるほどは長く踏まない方がいいし、1拍目と2拍目に超短くペダルを使っていくやり方もあるが、やはりアクセントがつくので「指に楽」でも音楽的にはどうであろう?

子供の頃に、何人かの日本人の先生にこの曲をレッスンしてもらったが、どの先生も2拍目に踏むペダリングを強制した。私と同世代なら思い当たるのでは?これは一体なぜかと考えると、コルトー版のペダリングなのである。

コルトー版ではピアニストとしてのアプローチが魅力で、練習方法や指遣い等が非常に詳しく、コルトー自身の弾くショパンやロマン派ものが神格化されていた経緯もあり、今もなお権威あるエディションである。当時はフランス・ザラベール社のみの出版だから、作品10だけでも6000円(もっと?)ぐらいのものだったので、余計にありがたみがあった。私が大学生の頃にやっとザラベールUSA版が出て2700円ぐらいになったが、今から30年前はJRの1区間が30円の時代だから、換算して欲しい。そうした流行り&優越感で使っていた先生も多いだろう(笑)し、生前のコルトーに会った事があったり聴いていたりすれば、影響はさらに大だ。ところがコルトー自身がそのペダリングで弾いていない(笑)。晩年の録音は特定した踏み方ではないものの、1933年の録音からペダル無しのバージョンが基本である。この曲を弾く場合に最も良いやり方であるものを、巨匠コルトーが実践していないはずがない。つまりコルトー版というのは、弾けない学生のための本であって、ピアニストのために書かれた本ではないのではないかと疑うと、さらにおもしろい楽譜に見える。

アルフレッド・コルトー(ALFRED CORTOT, 1877~1962)について今の若い人等はどう思っているのだろう?詩的なピアニストとして有名だが、骨格ある解釈もうまく大曲も小品も得意。ルバートや洒落た歌いまわしも魅力的な巨匠。ただ晩年のホロヴィッツもそうだったように、録音はミスが多く彼のすべてを伝えてはいない。シューマンの「謝肉祭」とか日本に来た時の録音等はさすがに聴きづらい。a0041150_9531827.jpgそれでも未だにCDはリリースされ続け、永遠不滅の演奏家に位置されているのは、それを上回る何かがある人だから。ボクも大好きな演奏家である。決定的なショパン弾きの様に言われているが、現在では、好みが分かれるかもしれない。ソロだけでなくパブロ・カザルスとのベートーヴェンの変奏曲、マギー・テイトやシャルル・パンゼラとやった歌曲は最高だ。ジャック・ティボーとのドビュッシーのソナタではさらに真価が余すところなく発揮されている。

ソロではフランクのプレリュード・コラールとフーガが1番だろう。彼のあの演奏がなかったら、今のように頻繁に弾かれなかった曲かもしれない。最近は公開講座のCDも出て非常に興味深いが、映像付きで「子供の情景」をレッスンするものがあり、声の感じもすべてに雰囲気があり、模範演奏も限りなく詩的で感動する。もっと色々な映像が遺っていて欲しかった。

演奏の方は「お蔵入り」しているものがかなりあるらしく、これからますます掘り起こされるに違いない。まずはマズルカ全曲というのがあるらしく、私はこの一部を聴いたことがある。意外に面白味のない演奏で、その真偽のほどがわからないのだが、録音したという記録は正しいようだ。ベートーヴェンのソナタも全曲あるらしい。ライヴでは皇帝なども弾いているので、それもアリなのかもしれない。またホロヴィッツをソリストにして、ラフマニノフの協奏曲を指揮したなどいう記録も。以前コルトーのファンサイトがあって、珍しいシフラとの写真などがあり、楽しかったのだが。
by masa-hilton | 2005-08-28 02:42 | 大ピアニストたち
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