結構この鑑賞レポートが評判いいのです。ありがとうございます。さて今回はとても長くなりそうなので「です・ます」調では書けません(笑)。お許しを(笑)。
・・・晩年のホロヴィッツのライヴを聴く。晩年のホロヴィッツといえば83年に来日して不調だったために、吉田秀和ごときに「ひびの入った骨董」呼ばわれされてしまう。86年に再度来日した折に巨匠ならではの至芸を披露し、汚名をそそいだという経緯・・・天下の吉田大先生には失礼な言い方かもしれないが(笑)、ファンとしては怒っているのだ。私は83年6月11日のホロヴィッツを、前から5列目の中央席で聴き、様々なことを吸収し大きな感動を得た。人生最大のイベントだった。老巨匠がわざわざ目の前に出向いてくれたのである。不調だろうが何だろうが、魔法のような音の響きがあり、そこからは多種多様な「気」が充分に存在し、その存在そのものが文化である事に気付かずにいったいどうする。しかしホロヴィッツにとってはこの日本公演が生涯最悪の演奏会だったのは間違いないし、復活を遂げてくれたのはもちろんうれしいことだ。 その後しばらくステージを離れ、公式なコンサートは85年10月26日のパリ・シャンゼリゼから始まる。レパートリーも入れ替えられて、得意の小品が多いのもうれしい。ここから最後の公開演奏(87年)まで同傾向の曲を弾き続ける。このシャンゼリゼ公演にはツィメルマンやベロフも聴きに来ている。先日ピティナ主催の講座で、この日の印象をツィメルマンが「実質にはメゾフォルテの音量なのに、最大のフォルテに聴こえた」魔法について、もろもろ語ったらしい(先ほど知人がメールで教えてくれた)。そしてホロヴィッツはこのあとミラノ=スカラ座、ニューヨークと経て86年の4月20日にロシアの里帰り公演をモスクワで行う。この演奏はCDの他にDVDでも手に入る感動の1枚だ。特にアンコールのトロイメライが語り草になったが相変わらずのスカルラッティの雄弁さ、個性的なアイデアに満ちたモーツァルト、ウィーンの夜会のニュアンスのうまさも格別だ。この2日前にリハーサルのコンサートが行われていて、そちらの方がずっと上出来だったと記録されている。いつかこれもリリースされるだろう。 Scarlatti: Sonata K.87, K.380, K.135Mozart: Sonata in C major, K.330 Rachmaninoff: Prelude Op.32 No.5, No.12 Scriabin: Etude Op.2 No.1, Op.8 No.12 Schubert: Impromptu ,Op.142 No.3 Liszt: Soirée de Vienne No.6 Liszt: Sonetto 104 del Petrarca Chopin: Mazurka Op.30 No.4, Op.7 No.3 Chopin: Polonaise Op.53 Encores: Schumann: Träumerei, Op.15 No.7 Moszkowski: Etincelles, Op.36 No.6 Rachmaninoff: Polka de W.R. 4月27日にはレニングラードでリサイタル。このCDは海賊版で、誰かが客席で膝の上で録音したもの。その割にはまあ聴きやすい方だと思う。以前同じような状況で録音された1969年10月ボストンでの演奏会では、演奏は冴え渡っているが音質は買ってビックリのCDだった。今後も続々と登場するのだろうか?演奏家としては微妙である。こういうことをされては権利の問題も含めて人権侵害、まさに違法。でもホロヴィッツクラスであれば、こうして残っていることが世界遺産になるからね、どうしたものか。さて話を戻してレニングラードの方はスカルラッティとマズルカで曲が入れ替えられている。またモーツァルトをクライスレリアーナに変えて、演奏時間も長い。CDには全曲は入っていなかった。Scarlatti: Sonata K.87, K.380, K.135 Schumann: Kreisleriana, Op.16 Scriabin: Etude Op.2 No.1, Op.8 No.12 Schubert: Impromptu Op.142 No.3 Rachmaninoff: Prelude Op.32 No.5, No.12Liszt: Soirée de Vienne No.6 Liszt: Sonetto 104 del Petrarca Chopin: Mazurka Op.17 No.4, Op.7 No.3 Chopin: Polonaise Op.53 Encores Schumann: Träumerei, Op.15 No.7 Moszkowski: Etincelles, Op.36 No.6 Rachmaninoff: Polka de W.R. ホロヴィッツ自身はレニングラードの方が良い演奏だったようなことを言っているが、モスクワに比べると緊張感がない。そこが良いところでもあり、温かみは増している。ミスも調子に乗って勢い余ったような種類の感じだ。 5月11日はドイツ・ハンブルグでリサイタル。若い頃チャイコフスキーの協奏曲を代役で弾いて一躍センセーションを起こした町がハンブルグ。今回のリサイタルでもアルゲリッチらが見守る中、奇跡のような成功を収めたとされている。調子も上がってきていたのだろう。それを証明するかのように、今回聴いた中で最も壮絶で、魅力に溢れていたベルリンのコンサートのライヴCDが存在した。5月18日に行われたベルリンライヴは、解釈や演奏的には他のコンサートとそれほど変わらないものだが、録音の音質が非常にシャープなせいもあり、かみそりのような切れ味の表現に聴こえて来るし、スケールも大きい。スクリャービンの8-12のエチュード等は特に良い出来である。得意のモシュコフスキーは冴えているだけでなく、音楽的な表現力でも情感が増しているように聴こえる。プログラムはレニングラードと一緒だが、アンコールのラフマニノフのポルカが、リストの忘れられたワルツに変更している。聴衆の熱狂ぶりも尋常じゃない。そしていよいよ日本に来ることになるのだが、日本公演は3回。いずれも昭和音大の人見記念で、6月21日、28日、7月6日である。このうち21日と7月6日が基本的に同じプログラム、前述のハンブルグとベルリンでやった同じプログラムだから、各地で大成功を収めたあとの公演だった。CDは28日のもので別プログラム。 Scarlatti: Sonata K.87, K.380 , K.135Mozart: Sonata K.330 Rachmaninoff: Prelude Op.32 No.5 No.12 Scriabin: Etude Op.8 No.12 Schumann: Arabeske Op.18 Liszt: Soirée de Vienne No.6 Liszt: Consolation No.3 Liszt: Valse Oubliée No.1 Chopin: Mazurka Op.30 No.4, Op.63 No.3 Chopin: Scherzo in B minor, Op.20 Encores: Schubert: Moment Musical Op.94 No.3 Moszkowski: Etude in F major, Op.72 No.6 弾いてきたプログラムと変えたのは、東京公演に思い入れがあったせい?かもしれない。この演奏会はNHKFMでオンエアされている。よってエアチェックされ、音源を持っている方も多いことだろう。CDの方はアンコールが入っていないが、音質も多分NHKのものを転用していると思われるものなので、聴きやすい方だ。演奏自体はベルリンライヴの方がテンションが高く面白い。しかしこちらではシューマンのアラベスクが超名演。この曲はホロヴィッツが生涯を通して弾き続けた曲の1つだが、この演奏が私は1番気に入っている。テンポ運びといいニュアンスといい、全く神が降りてきたかのような味わいを持っている。昔は演奏効果が大して上がらない割りに長いので、自分は弾くことはないと思っていたが、こんな演奏を聴いてしまってはさらに恐れ多くて、気軽に弾けなくなる。素晴らしい演奏に感動のあまり「自分も弾いてみたい」とはしゃぐ大馬鹿者でないが、じっくり勉強してみたいと思っている。マズルカも63-3が入っていてこれもうれしい。 もう1点買って聴いたのがハンブルグのライヴ。実は店頭でよく見ないで、ベルリンリサイタルの前に行われたものかと思って購入したが、実際は1987年6月21日のもので、なんとホロヴィッツ生涯最後のステージのライヴだった。87年5月31日には映像でおなじみのウィーンでのリサイタルが行われている。よってプログラムはウィーンと同じものである。 Mozart: Rondo K.485Mozart: Sonata K.333 Schubert: Impromptu Op.90 No.3 Liszt: Soirée de Vienne No.6 Schumann: Kinderszenen, Op.15 Chopin: Mazurka Op.33 No.4 Chopin: Polonaise Op.53 Encores: Liszt: Consolation No.3 Schubert: Moment Musical Op.94 No.3 Moszkowski: Etincelles, Op.36 No.6 CDの方はどうしたわけかモーツァルトソナタの途中からと、リスト、子供の情景、マズルカ、英雄、楽興の時、モシュコフスキーとなっている。最高に調子が良いとは言えないが、マズルカは絶品。最後のコンサートとなれば聴き手の思いも格別である。またこのCDは、音質自体がマイクが他のものより近いような感じで響きが異なって、やや丸みを帯びたようなものになっている。これが彼の演奏スタイル、解釈を別の側面から観察できる楽しみを与えてくれる。それは今回の鑑賞すべてに言えたことで、例えば解釈が全く同じであったとしても、その響きや聴こえ方によって、本質が浮き彫りにされるのである。それぞれの違いもまたストレートに楽しく、より激しくレンジの広いベルリンではホロヴィッツファンとしての欲求が満足させられ、東京では他のピアニストの収録と同じような響きと音色で聴けるため彼の特徴がより鮮明になり、ハンブルグでは本質的な音楽の温かみとタッチがいかに駿足に情感へ対応するかの見事さを堪能した。モスクワとレニングラードではその微妙な精神状態の違いによる音楽の構築の違いが楽しかった。ほぼ同じ時期の同じプログラムの集中したホロヴィッツ鑑賞は、私にとってよりピアノという楽器の可能性を深める素晴らしい体験になった。 ![]() 調子に乗った私はチェリビダッケの録音で今度は手痛い失敗をした。チェリビダッケの演奏で超名演ということで名高いリムスキー=コルサコフのシェエラザード。ミュンヘン・フィルとの伝説の演奏は、まさに地球が揺らぐような大きなスケールで演奏された大名演で、テンポも独創的で・・・というふれ込みだったのでぜひ聴いてみたかった。DGの方に早々に普及版でリリースされているものがあり、それぞれ評判が良かったので、気持ちも高まる。大抵こういう他人の評価はあてにならないのだが、今回はそれとは別の大きな過ちを犯した。もともとシェエラザードは大好きな曲だが、私はミーハーチックに匂うほどロマンティックな演奏が好きだったのだ。そういう意味ではチェリビダッケという人は、どんなに素晴らしくてもそっち系ではない。そっち系はいかにも映画音楽もどきにやってくれる指揮者じゃないとダメということだ(笑)。 そういえば以前SDRとのライヴ(1980年2月29日)を買って置いたので、こちらから聴いてみる。こちらは珍しくオケの状態がしまりがない感じで、気宇の大きな演奏にもかかわらずしっくり来なかった。やはり緻密な魅力がチェリビダッケの魔力の1つなので、それがやや揺らぐと感性にも響くのではないだろうか。で、ようやくミュンヘンとのライヴを買って聴くことが出来たのだが、これがまたピンと来ない感じ。ホロヴィッツの方に神経がとられたので、また次回改めて聴いてみようと、ケースにしまいながらよく見ると、何と!!!クレジットが1984年5月15日とある。これは!!!私が買おうとしていたのは84年4月18日のものだったのに。まちがえた~~~。でもこれはある意味海賊盤なので、価値はあるかもしれない。さあ、どうする。もう1枚買うのか?ちょっとその気は失せている。さてチェリビダッケといえば、彼が伴奏にまわったジャクリーヌ・デュプレとのドヴォルザークの凄演も聴いたし、ミケランジェリとの素晴らしいライヴをまとめたものも手に入れたので、これはまた次回に。つづく。
by masa-hilton
| 2006-05-15 12:46
| 休日は怒涛の鑑賞
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