かねてから聴きたいと思っていた晩年のコルトーのライヴによるシューマンのピアノ協奏曲が、これまたLP時代に買いそびれていたスゼーとの共演の「詩人の恋」とのカップリングで登場してくれました。ピアノ協奏曲はロナルドとの共演の正規の録音があって、これはコルトーの演奏の中でも比較的技術的にも満足の行く良い状態のもので名演として定評があるように、テンポの動かし方や旋律の歌い方、曲の構成に至るまで心遣いも丁寧で私としても好きな演奏でした。ライヴはグッとテンポも表現も煮詰めに煮詰めた濃いものとなっていて、冒頭からして「ピアノのフルトヴェングラー降臨」みたいなノリで度肝を抜かれます。確かに晩年のコルトーの技術というのは、本当に凄まじくひどい状態なので、こんなテンポもありだろうとすぐさま納得ですが、意外や意外、結構ちゃんと弾けている。むしろ晩年のものにしては良く弾けすぎています(笑)。遅いとか何とか言うよりも表現力の強さに特徴のある演奏で、深い内容とか濃厚なロマンチシズムはあるけれど、どちらかというとロシア人の演奏を思い起こさせる感じで、多分これをソフロニツキーの演奏といっても通るはずです。頭をよぎったのは「本物なんだろうか?」ということでした。「詩人の恋」も往年の名歌手パンゼラとの共演の名盤があって愛聴していましたが、この若い時代のスゼーの表現力も優れていてとても素敵でしたよ。この演奏は学生時代に友人が「ピアノメチャクチャだから」と感想を言っていたのを覚えているのですが、そんなことはないと思いました。むしろピアノ協奏曲よりずっと詩的な、本来のコルトーのピアノが聴こえてきて満足したのです。 で、何かよくわからないのが輸入盤でコルトーのショパンばかりを集めたボックスCDです。まずエチュードが2種入っていて、これは昔EMIのGRシリーズで出ていた赤いジャケットのものと青黒いものの両方、正規の録音でした。前奏曲はGRシリーズのものでも私が前から持っていたCDとも違う年代のものでしたが、コルトーは前奏曲は上手ですね。どれも名演ですよ。あともう1つぐらいあるそうで、コルトーってホントにしょっちゅうレコーディングしていたんだなあと妙な感心。あとは協奏曲2番とかソナタ、小品等々普通に出ているものをまとめただけですが、びっくりの大問題はワルツ集!!何だこれは~~!と叫んでしまうくらいおかしな演奏だった。ワルツ集は正規のものを持っていないので何ともいえませんが、これって?いくらコルトーがミスタッチがあってメチャクチャやるにしても、随分と乱暴で、「味がある」というのもギリギリのお世辞(笑)。この日のピアノはひどく連打がしにくいピアノだったことだけは確かで、それを強調するかのようにふざけた表現もあるんです。もしかしてテスト録音?だったのかな。でもこれはクレームをつけているのではないのですよ。こういうのが楽しいんです。またこのジャケットの写真が!この顔でこの演奏・・・・涙目になりそう。このポーズで何時間も静止して撮ってたらどうしよう。 コルトーの門下にも面白いピアニストが多いですね。大胆組は伝説化されているフランソワやタリアフェロ等がいて、ロマン的で特有なレパートリーでのテンペラメントは何ともワクワクさせてくれます。有名である割には実態が知られていない人にレーヌ・ジャノーリという女流の大家がいて、この人がいまいちよくわからない演奏をするんです(笑)。以前シューマンの「ウィーンの謝肉祭の道化」を買って、面白くないんだけどつまらなくもない何とも言えない感じで棚にしまったのを忘れて、ショパンの協奏曲とワルツ集を購入。協奏曲のアラウもビックリの遅いテンポでの、これまたつかみ所のない演奏を聴いていて、そのシューマンのCDを思い出しました(笑)。ショパンのワルツではゴギゴギと始まり「あ~まいったな~」と思わせつつも、結局全曲通して聴かせてしまうという(笑)謎めいた演奏。この人のピアノをそばで見聞きしたり、実演だったら驚くほどのニュアンスを持っているに違いないのでしょうね。録音ではそれが録りきれていないのです、多分。 さてここ最近聴いた演奏の中で最もインパクトが強くてワクワクしたのがこれ!若くして亡くなったジャクリーヌ・デュ・プレが巨匠チェリビダッケとの共演で弾いたドヴォルザークのチェロ協奏曲!これはいいですよ、あたり前に凄い!「ああ!この曲はこういう曲だ!」と目が覚める思いです。これを聴いちゃうともう他のチェリストのドヴォルザークなんて・・・みたいな気分にさせられます。カップリングのサンサーンスもいいですが、やはりこのドヴォルザークですね。デュ・プレの遺した演奏はどれも名演かもしれませんが、私にはこれが1番です。このライヴは彼女の良い面がストレートに出ていて素晴らしい。もし日本人がこんな演奏したら?みんなに嫌われるかも(笑)、批評家も良く書かないかも・・・・日本とはそういう所ですね。誰か一人が突出するのを許さない国です。だからデュ・プレが日本人じゃなくて良かった、潰されないで良かった、この演奏が残ってて良かった、この演奏と引き換えならモーツァルトのシンフォニーが5曲ぐらい失われたって良いよ。ホントに。私がこの曲を最初に聴いたのはカザルスのチェロ、ジョージ・セル指揮のチェコ・フィルという1937年録音の正規盤ながら歴史的名盤。雷に打たれたように感動しましたが、この演奏のお陰でチェリストはデモーニッシュにテンペラメントを開放することができるようになったとも思います。その後ロストロポーヴィッチ等を聴いてもあまり何とも思わなかったのですが、このデュ・プレによって価値観が塗り替えられました。この演奏の唯一おかしなところは第1楽章の終結部、チェリビダッケがラストの音から魂を抜いたようにあっけなく終わっていることです。大拍手が第1楽章で鳴り止まなくなるのを恐れたのでしょうか? さてそのデュ・プレの凄まじいCDを買ったあとで、私はまた凄いものを買ってしまいました。今度はそのカザルス、ライヴのドヴォルザーク!1960年のものでカザルスの音楽祭での収録ですから、珍しいものではないと思います。いやこれはまたまた凄いね。並べて表面的に比較すれば、録音の良し悪しとカザルスの技術的な衰えの問題もあるので、デュ・プレの方に軍配かもしれませんよ。しかし年齢や生きてきた時代を考えると、もともとこのカザルスがいたからこそデュ・プレがいるわけだし、その本家が老いてなお内容も気合も1歩も引かないというのは、やはりカザルスのもの凄い芸術家魂に打ちのめされます。まさに人間そのもの。音楽そのもの。音楽ってやっぱり感情のすべての没入というか、人を触発するパワーのあるもので、その「魂を射抜くような矢を放つこと」が演奏することの基本なんですね。感動です。こちらの第1楽章の最後は、まさに興奮に包まれたような音で終わっていましたしね、こうじゃなくっちゃね。老いても気迫を維持していかねば!ユンケルだけじゃもたないかもよ(笑)。
by masa-hilton
| 2006-07-02 13:18
| 休日は怒涛の鑑賞
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