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休日は怒涛の鑑賞 その5

休日は怒涛の鑑賞 その5_a0041150_511624.jpg休日は怒涛の鑑賞 その5_a0041150_51342.jpg果物と同じようにCDは当然「あたりハズレ」がある。それは私的な好みでの「あたりハズレ」で良し悪しではない。今回ハズレたのがこの2つ。共にサン=サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番だ。この曲は芸高に入ったとき、同級生達がみんな弾いていて、言ってみれば青春を思い起こす曲。どの楽章も美しいが、特に第1楽章は音色にコクのある歌心のある人が弾けば、官能的なロマンが噴き出して大好きだ。デュプレのような演奏で聴きたいと思い、いつも頭を大振りしながら自分勝手なぐらい、狂人のごとく弾きまくるヴェンゲーロフなら!と思って買ったら、これが想像よりぐっと大人しくてつまらない。彼は見て聴いたほうが良いのかも。パッパーノの指揮も、オペラが得意な指揮者だから妙に合わせてしまうのか不発気味。それではとチョン・キョンファのものを買ったら、若い頃の録音のせいか今ひとつな感じで期待はずれだった。バックのオケはさらに退屈だし、これならヴェンゲーロフの方が良い。チョン・キョンファなんてテンペラメントの塊のような印象があったが、もう古いのだろうか?むせ返るようなロマンチックな演奏ではないが、家にあったシェリングの方がこれらよりはずっと説得力が強いから、時代的な問題じゃないのだろう。ただ趣味もあるしヴァイオリンは専門でないので、何がどうでどうなっているかはわからない。ラロのスペイン交響曲も大昔のフーベルマン(ジョージ・セル共演)やミルシュタイン(オーマンディ共演)のものの艶やかさに一目も二目も置いていると素人耳には思える。巨匠と言われる人は、やはりただ者ではないということなのだろうけど、ヴェンゲーロフの有り余る才能をもってしても超えられない「魅力の秘密」はどこにあるのだろうか?

休日は怒涛の鑑賞 その5_a0041150_5184071.jpg休日は怒涛の鑑賞 その5_a0041150_5185497.jpgさて爆発的な演奏と言えば、まずは往年の名テノールのディ・ステファーノがシミオナート、グェルフィとの共演で歌うマスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」1955年のライヴ。とにかくテンションの高さというか熱さがただ事じゃない。ディ・ステファーノの情熱的な歌声も絶好調で、まずは頭の「シチリアーノ」からして凄い。終わったとたんに、オケもドカーンという感じで「オペラだ!」と叫びたくなるぐらいの盛り上がり。ところがこのCD、ちょっと回転が速い、つまりピッチが高くなっている。シミオナートがシミオナートの声に聴こえない。燃え立つような熱気も回転が速いからなのか?と考えると悲しい~。コンピューターに1度落とせば、調整できるものなのかしらね(笑)。しかしそれにしてもデル・モナコといいコレルリといい、このディ・ステファーノも「明日のことを考えない」命がけの歌いっぷりが素敵だ。私にとってのオペラの醍醐味や魅力はそれに尽きるので、正しいオペラファンと言えない(笑)。もう1つの爆演はチャイコフスキー・コンクールでアシュケナージと1位を分け合ったピアニスト、オグドンによるリストのライヴだ。もともと太めで巨漢だから、こんな演奏がまさに似合う。やってくれるじゃないの~という演奏でゴキゲンだ。オグドンは晩年は病気で弾けなくなり早世したが、このリストの協奏曲は凄い、まさに弾きまくり!どちらかと言うと自分流のパッセージに直したりと、古いタイプのピアニストなのだが、だからこそ理屈ぬきで、文句なく楽しめるわけだ。特に2番の協奏曲は割と表現方法に幅があって、若い頃のツィメルマンがショパンのような流れで叙情的に弾いたやつとか、「王者の風格」で晩年のアラウが日本でNHK交響楽団と弾いた悠然とした演奏もそれぞれに素晴らしかった。私自身はアラウのリストは結構好きだから、例の行進曲風な楽句が音楽的なスローテンポで、チャイコフスキーのピアノ協奏曲ばりに弾かれた時は、大いに感動した。そこへいくとこのオグドンは、ピアノの名人リスト制作のガンガンの曲だったことを思いださせてくれる爽快ぶりで、ここまで勢いがあればこれはまたこれで素晴らしい。14分ぐらいにわたる「カンパネラの幻想曲」というのも初耳だったし、ピアノ好き+ピアノが弾ける人なら必聴のおもしろCD、おすすめの1枚だ。

休日は怒涛の鑑賞 その5_a0041150_11501150.jpg私の最も苦手なタイプなピアニスト、ドワイヤンのラヴェル全集を聴く。誠実な演奏という以外には何も見当たらない芸風。叙情的な歌いまわしはできないし、マジメ人間が無理してピアノを弾いている感じがして、どうも納得がいかない。特にこの人のフォーレ全集が、かねてから決定盤のように言われていて、これがどう聴いても味気ないのだがなぜか評価が高い。「見本になるものだから、一生懸命やらねば」という演奏で私はまったく魅力を感じない。このラヴェルもまた同じスタイル。何もないとは言っても、全集としてはもちろんお手本的で、誠実さが前に出た「道化師の朝の歌」や「クープランの墓」等はわりと良い。また幾分古い録音での協奏曲では、共演の若き日のジャン・フルネのバックが「良い意味での雑で陽気なこ洒落た気質ぶり」を発揮して、ドワイヤンをリードする。管楽器のソリストぽいばらつきもまた、フランス人的な香りを出していて楽しいが、2楽章等で叙情的な旋律をドワイヤンがソロで弾き出すと途端に、子供の演奏のようになってしまい幻滅。「夜のギャスパール」も弾けない所はどんどんおそくなるという感じで垢抜けない。これならペルルミュテールのものが断然優れている。ラヴェルの弟子でもあったペルルミュテールは曲に共感していると言うより、もともとショパンも得意であったので詩的な表現に俄然優れている。技術的にはよく言う「教師のピアノ」という感じがしてしまい、超一流という感じがしないのは残念だが、それを超えた叙情性があるところは素晴らしい。老境に至ってその特徴がよくとらえられた映像が残っていて、こちらもYOU・TUBEで「オンディーヌ絞首台スカルボ」と全曲見ることができるが、1曲目の冒頭での心の通わせ方にまず感動できる。

休日は怒涛の鑑賞 その5_a0041150_12143187.jpgしかし「夜のギャスパール」と言えばなんと言ってもミケランジェリだ。いくつも録音が残っているがどれも同じように素晴らしい。イメージの深さ、テクニックも完璧とか何とかと言う次元の問題ではなく、音楽のドラマと密接に結びついていて、芸術性の高さと共に驚嘆せざるを得ない。そして冷徹とも言われるが決して冷静ではないと思うし、むしろエレガント・貴族的であると感じるこの芸風が、より一層の品格と音楽に対する独特な「思い」を感じさせ、不思議な存在感を強めている。申し訳ないがこれはやはり巨匠のピアノであって格が違いすぎる。それは1982年ライヴのベートーヴェンのピアノソナタでも明らかで、始まりは「おや?」と思うほど枯れているのだが、それでいて味気ないことは全くなく、主張も強く味も深く、例えば作品7の4楽章の歌いっぷりの音色のもの言いを聴いただけでも、並のピアニストとの差に愕然とする。巨匠の演奏には、ある種の弾き癖や特徴を含めて、厳然とした個人的な演奏力の強さみたいなものがある。平たく言えば「自信」と言うか「信念」、それが侵しがたいパワーを持っているということだ。

休日は怒涛の鑑賞 その5_a0041150_12401357.jpgミケランジェリが同じくカリスマのチェリビダッケと共演したシリーズ。どれも会場でこっそり録られた感じであるが、すべてお得意の曲ばかりでうれしい。まずラヴェルの協奏曲は1992年のライヴ。70歳を超えさすがにミスもあり老境を感じさせる。しかしやや遅く弾いているだけで本質的には何も変わらなく、特に第2楽章の歌いまわしは絶品だし、音色感の抜けの素晴らしさも相変わらず尋常ではない。ミケランジェリの演奏としては、同じチェリビダッケとの1982年の共演が良い。完成度が高く驚きだ。これも違法のYOU・TUBEで見ることが出来るので、消去される前に必見!第1楽章第2楽章第3楽章と、同じ演奏でもCDで聴く「熱い感じ」とは少し印象が違うが、これはこれでさらに品格が感じられブラビッシモだ。話を戻し同じ1992年のシューマンの協奏曲のカップリングが素晴らしい!こんな風に弾けたら何の悔いもなく死ねるよ。もちろんコルトーのような濃い味系でもないし、ルービンシュタインのようにロマンティックなものでもないが、じっくりとかみしめて心の表出が音から染みいでる。タッチが良いからこういう音が出るのだろうけど、そういう次元ではない。ベートーヴェンの「皇帝」は有名なライヴで、壮麗な演奏でこれも良いね。グリーグではエキサイトして、トゥッティで遅めにやるチェリビダッケと無関係に速めに弾くミケランジェリが面白い。

休日は怒涛の鑑賞 その5_a0041150_13172591.jpgベートーヴェンの「皇帝」と言えば私はバックハウスとギレリスのものが好きだ。特にギレリスの録音はレギュラー盤でもハズレはないが、ここ最近ライヴが3種類発売される。1つはヴァント指揮のケルン放送響の1974年もの。ヴァントの生命力のあるそして厳然とした演奏にギレリスならではの輝かしさが加わっての話題の1枚、ヴァントは亡くなっても人気が高いので、オタク的にはこれが1押しだろう。1971年のベーム指揮チェコフィルとのライヴも鋼鉄のようなギレリスの音と、燃えたベームが組んだ堂々たる力感の演奏ということで話題、こちらはリハーサル風景が入っているんだよね・・・買おうかな?買いましょう!もう1つは私が買ったラインスドルフ指揮ニューヨークフィルとのモスクワでの1976年のライヴ。最近評価が見直されているラインスドルフだが、私は前からマーラーの交響曲やオペラの指揮ぶりで、ただの実直な指揮者ではないことは知っており、あとの曲が「ラ・ヴァルス」とR・シュトラウスだったので選んだが、ギレリスはホント素晴らしかった。鍵盤の王者たる風格がこの曲にも相応しく、熱くそして芸術的に飛翔している。2楽章の素晴らしさは音色に負う部分も大きいが、3楽章の堂々たる深みはなかなか得られない芸だ。ところでこのCDはあまり売られていないようだね。どうしたことだろう?最後の1枚?でも買えたんだから満足!
by masa-hilton | 2006-08-27 05:31 | 休日は怒涛の鑑賞
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