忙しいので怒涛には出来ないけれど、けっこうCDは買っていてあれこれ聴いています。まとめての感想は今は無理ですが、とてもインパクトを受けたものは番外編として、これからとりあげたいと思います。
私はプッチーニの「ラ・ボエーム」が大好きです。これほど甘美で魅惑的なオペラは他にはありません。良い演奏に出会えば確実に泣けます。色々集めていますが、もちろん当たり外れも多いです。何を基準で当たりと言うのかはあいまいなもので、子供の頃1番最初に聴いたカラスとディ・ステファーノの演奏が耳から離れず、自分の中で1つのイメージが出来てしまっている・・・・これは聴き手としては、最も「たちの悪い部類」に属しますね(爆笑)。そうは言っても毎回色々な発見があり、それを楽しんでおります。 今回聴いたのは1927年に録音され(?)28年にリリースされた有名なもの。巨匠サバイーノ指揮によるミラノスカラ座のスタジオ録音。ボエーム全曲は1918年に録音されたものがあるらしいのですが、かなり古い感じがする伝説のテノールのジーリとアルパネーゼの共演盤が1938年ですから、こちらは最古に属する全曲盤です。プッチーニが亡くなったのが1924年、ここでの歌手達は作曲者を直接知っている、またはその空気を理解している人たちということになります。ミミを歌っているトーリは23年に「蝶々夫人」を歌っていますし、マルチェロのバディーニは知られた名歌手で、レオンカヴァルロ自身の指揮による「道化師」の録音にも参加しています。またあの有名なサルヴァトーレ・バッカローニが、アルチンドロとべノアを歌っているのが面白い。当時バッカローニは若くて、スカラ座に来てまだ2年目だったようですね。この録音はずっとレギュラー盤で生きていましたし、現在でもVAIをはじめ色々なレーベルでリリースされていますが、私が昨日買ったのは、イタリアのGRAMMOFONO盤で新盤ではありません。1999年から2000年にリリースされたクレジットが見えますが、なんと!音が良いのです!この時代のものはさすがにオーケストラの音が貧弱で、皆さんもカルーソーの録音とかで体験済みでしょう?ところがこの盤は見事な復刻ぶりです。十分に鑑賞に堪えますし、当時の歌手達のノスタルジックな表現も味わい深いです。 驚いたのは音質の良さばかりではありません。ご存知のようにプッチーニは「蝶々さん」「西部の娘」「トゥーランドット」でお国めぐりというか、日本やアメリカ・中国を舞台に曲を書いているわけですが、そう言えば「ボエーム」は舞台がフランス・・・・このサバイーノ盤はなんと、そのフランスの香りが強くするのですよ。本当はそうあるべきだし、プッチーニだって十分そのつもりで作ったはずですよね。しかし曲があまりにも良い曲で、話も泣けてしまう、そこへ名歌手の素晴らしい声に酔わされてしまうと、イタリアオペラとしての醍醐味にすっかり浸ってしまうのです。アンティークなこのCDでは、「ムゼッタのワルツ」や「もう帰らないミミ」もまぎれもないシャンソンに聴こえます。往年のフランス映画を見ているような、独特な感動がありました。このCDはおそらくほとんどのオペラ関係者は知っているはずなのに、この雰囲気は昨今失われてしまっています。とても惜しい気がしました。また今更ながらの再発見に深く考えさせられたのです。 ピアノでもまだショパンが生きていた頃の空気を持った演奏家のCDが続々復刻されています。だからといってその芸風を踏襲するのは難しいのが現実なんですね。現代でその解釈はありえないのです。でも良く考えるとこれは理不尽なことです。そのスタイルこそ伝統として、残すべきものではなかったのでしょうか?しかし聴き手の好みも移り変わり、演奏家同士の競争のような状態の中で、大切なものを失くしてしまったのでしょうか?残念です。 友人のKさんも推奨されていますが、ショパン存命中に生を受けたピアニストのフランシス・プランテの遺した全18曲の録音が最近簡単に手に入るようになりました。プランテの生涯を追っていけば、リストの弟子に師事しショパンの友人(共演者)や弟子達との遭遇、ロッシーニ夫人からの援助や、学友のビゼーやサンサーンス、それ以降ダンディ、デュカス、アルベニス、ルーセル、ドビュッシー、ラヴェル等との交流・・・それ自体が興味深く文化そのもので貴重なのです。1日昼夜2回公演を全く異なるプログラムで演奏する超人で、この録音そのものも89歳のものですが(上記のボエームと同じく1928年の録音)、それにしてはしっかりとしています。この演奏だけで、ショパン自身の持っていた何かを見出せるかどうかはともかく、全盛期にはかなり猛烈に弾きまくっていたであろうことは、容易に想像できますし個性も豊かです。このCDにはサンサーンスの演奏もわずかに入っていて、その豪腕ぶりも聴きとれます。 他にはドビュッシーの「金魚」も遺っている伝説のピアニストのリッカルド・ヴィニエス。これは演奏断片でこのピアニストの良さをあまり伝えていませんし、教育者のイシドール・フィリップとそのアシスタントとのピアノデュオもあまり面白いものではありませんでした。フィリップはインターナショナルの楽譜の校訂でお馴染みですね。ショパンやリストゆかりの人物やサンサーンスに師事し、その門下にはダルレ、ノヴァエス、ティッサン=ヴァランタン、このコーナーでもとりあげたブランカール、ギュラー、ブルショルリ、我々もよく知るニキタ・マガロフ等もいます。 さてこのCDでの最も注目すべきはルイ・ディエメの演奏がはいっていることです。1843年生まれですから、これもショパン存命中。1887年にパリ音楽院教授に就任以来音楽界に君臨、あのコルトー、ナット、カザドゥシュ、カゼルラ、ラザール・レヴィ等もその門下です。そのコルトーの師というイメージが強いせいか、フィリップのような音楽研究者と思われがちですが、有名なものではフランクの「交響的変奏曲」の初演をはじめ、サン=サーンスの「エジプト風」ほか、多くの作品が彼に献呈されています。録音は60歳代の7曲しかなくそのうち4曲はつまらない自作の演奏。有名な曲はショパンのノクターンとメンデルスゾーンの「つむぎ歌」でこれがこのCDにはいっています。これがなかなかの演奏で、ショパンの自演もかくやと思わせる雰囲気があり楽しめます。かといってコルトーや、ナットの演奏とも全く違うものです。技術的にも洗練された感じですし、もっともっと多くの演奏を遺して欲しかったピアニストです。このディエメの芸風を引き継いだのは、多分ラザール・レヴィでしょう。故・安川加寿子先生の師ということで、この人は私たちにも馴染みのある演奏家です。探せばいくつもの名演に出会うことも可能です。 こうして門下生によって受け継がれている系譜を見ると、音楽の歴史は浅いのですよね。私たちですら、この次の世代の門下生なのです。カザドゥシュ、マガロフやブルショルリあたりになら習うことは可能だったわけですから。安川先生にも授業で習えてよかった。しかし、このわずか3~4代の系譜で、伝わらなければならなかったはずの空気が失われてしまったということなんですね。今ならまだ復活させることは可能なのではないでしょうか?とも思うのですが。
by masa-hilton
| 2007-03-25 16:38
| 休日は怒涛の鑑賞
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