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休日は怒涛の鑑賞 その15

昨日ちょっとCDに触れたら早速反響が(笑)。ありがとうございます。「バックハウスなんかを聴いちゃうと、恥ずかしくなってベートーヴェンソナタ全曲なんていれられない」と言ったことに対して、「そんな気弱なことでどうするの」というお叱りから「きっとすばらしいと思うからやってください」「個性的な全集を期待します」というエールまでいただいた(笑)。もちろんやる以上は成功させなければだし、とても良い演奏ができるのかもしれないが(笑)、「全集もの」というのは、そのレパートリーに若いころからじっくりと、命をかけて取り組んできた人がされるのが良いと思う。以下の全集物は良く知られたもので珍しくも何ともないが、そうした「重み」を持つという点で愛聴盤になっている。

休日は怒涛の鑑賞 その15_a0041150_2562429.jpg休日は怒涛の鑑賞 その15_a0041150_323169.jpg最近イングリット・ヘヴラーのモーツァルト・ソナタ全集を丁寧に聴いた。ヘヴラーと言えば特に日本ではモーツァルトの専門家扱いだが、ウィーン趣味に溢れたシューベルトも好きだし、ショパンのワルツ集等も踊りの表情に富んでいて趣味が良く、とても魅力的なCDだ。とは言え、モーツァルトのソナタは彼女が生涯をかけて弾いてきたレパートリー。そのスタイルも典雅で細かなニュアンスの美しさを、アンティークな空気で極めたような独自のものである。今回買ったのは新録音の方。幾分ゴツゴツしたような演奏もあって、私個人としては旧録音の流麗なものの方が好きな曲もあるのだが、ヘヴラー自身の強い意思で弾き方を変えたとのこと。長年モーツァルトを弾き続けてきて、本来はこういう演奏であるべきだと思い直しての再録音だそうだ。第7番のソナタ等、確かに説得力が増した曲もある。全集としての聴き応えがあり、音に対する意味合いの深さに心打たれるのである。この5枚組4200円は安い。

休日は怒涛の鑑賞 その15_a0041150_3324536.jpg休日は怒涛の鑑賞 その15_a0041150_3351981.jpgショパンの名手であったステファン・アスケナーゼのショパンの全集(ではないけれどBOX)もずっと欲しかったものだ。うまいといえば「子守唄」の伴奏音形1つとっても味があって、さすが巨匠の趣があるのだが、正直つまらない演奏が多く全部聴きとおすのは苦痛だった。録音が良さをとらえていない。この時代はこういうことがしばしばある。それでもである、生涯ショパンを弾き続けたピアニストの演奏は「とりあえずショパンを録音してみました」的な演奏が多い昨今、何らかの重さをハッキリ感じさせる。協奏曲の第2番等は大変すばらしい、ゆとりと哀愁を感じさせる「秋」の表現!感動した。また先ごろ出たライヴCDのモーツァルトの協奏曲(シューリヒト指揮)は、この巨匠の真価を示す名演だ。ショパンもこの時代の録音が十全であったら、本当の良さが遺せただろうに大変残念だ。7枚組8000円強。

休日は怒涛の鑑賞 その15_a0041150_3281944.jpg休日は怒涛の鑑賞 その15_a0041150_332011.jpg人によっては評価も低いのだが、アダム・ハラシェヴィッチのショパン全集は私のお気に入りの1つだ。何が好きかといえば音色である。エチュード等最近の名手たちに比べればスピード感もないし、全ての曲に平凡な印象を感じる方も多いだろうが、独特の清涼感と言うべきか、実際に演奏してなかなか出せない風味が底に流れている。先日ガブリリュク君に会ったときも評論家の真嶋さんと二人で、ハラシェヴィッチをワーストピアニストの筆頭に上げていたが、彼はまったく練習しないことで有名で来日公演はひどい出来だったそうだ(笑)。それはそれとして、このCDは悪くない。得がたいノスタルジックな香りがする全集だ。10枚組で4000円ほど。

ラザール・ベルマンはセンセーショナルな扱いをされたが、その後は過小評価されていたのではないかと思う。彼がやはり若いころから弾き続けていたリストの「巡礼の年」も全集になっている。骨太な技術、大音響ともいえるビッグサウンドを持ちながら、ロマンティックではあるが内向的で地味な色彩で描かれたリスト。この統一感が全曲を聴き終わったあとに重みを与える。この曲集のベストの1つであるとともにベルマンの真価を認識できる3枚組。3000円。

休日は怒涛の鑑賞 その15_a0041150_3382536.jpg休日は怒涛の鑑賞 その15_a0041150_3402168.jpgアンドラーシュ・シフのバッハの作品集も1つの偉業と言えるだろうし、場当たり的なものではない。多彩な才能と深い意図に溢れる演奏。フランス組曲や平均律の2巻にはやや荒削りな部分が見受けられたりしていたが、インヴェンションとシンフォニアの演奏は秀逸。平均律の第1巻、個性的なパルティータの第6番も独特な美しさがあって好きだ。録音年代は1983年から10年かけたもの。当時はかなり強烈な解釈に聴こえたところも、今では「挑戦の範疇」にすぎないようにも思えてしまう。鬼才のことだから、おそらくは再録音されることだろう。しかし12枚組3500円とは!

エミール・ギレリスのベートーヴェンのソナタ集は彼の死によって全曲盤にはならなかった。至芸の領域、ピアニストとしてお手本にしたいような理想的な表現やピアノのニュアンスが随所に!特にそのニュアンスに富んだ音で弾かれた第30番、第31番が思いのほか優れた演奏なので、続く第32番が録音されずに終わったことは、我々だけではなくご本人もさぞや心残りであったろう。この全曲集が完成されていたら、現代的なベートーヴェン全集の最も優れた演奏として普遍の金字塔になっただろう。ただしここでの演奏が本来のベートーヴェン像かと言えばそれもまた違う。あくまでもピアニストとしてみた場合の1つの姿。この辺りが難しいところだ。ベートーヴェンは奥深い。いろいろな演奏を受け入れてくれるが、本当に良いものはもっとオーソドックスなものかもしれない。しかしこれぞ正統!と呼べるようなもの、それ自体をあまり見つけることが出来ないのも現実。もっと現代的といえば、ポリーニのベートーヴェン後期ソナタとかも良い演奏だと思う。これはこれでまた1つの姿。が、格が違うと思う。こちらは9枚組9000円だった。

休日は怒涛の鑑賞 その15_a0041150_452356.jpg休日は怒涛の鑑賞 その15_a0041150_454010.jpg休日は怒涛の鑑賞 その15_a0041150_42224100.jpgこうして演奏家が心血を注いだ全集ものが大変安く売られている。ピアニスト・ラフマニノフの全集が10枚組3000円程度、シュナーベルのベートーヴェンソナタが10枚組2000円程度と安すぎる。きわめつけはカラヤンの交響曲全集38枚組が9000円(笑)。気軽に買うと聴くのも大変だ。
by masa-hilton | 2009-08-01 04:31 | 休日は怒涛の鑑賞
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